1. CECLの概要
2016年、米国財務会計基準審議会(FASB)は、金融資産(預金、受取手形、売掛金、貸付金、等)の減損の認識に関連して、(予想損失モデル(Current Expected Credit Loss – CECL)に関する新しい基準(ASU 2016-13)を公表しました(FASBから正式に米国会計基準についての改訂等があった場合には、Accounting Standard Update (“ASU”)という形で公表されます)。
CECLを適用する事で、企業の減損損失の認識の方法及びタイミングが変更になり、金融機関を中心に多くの企業に影響を与える事になります。ちなみにCECLは、2023年8月現在、既に米国公開企業では適用開始が始まっていますが、非公開企業についてはコロナの影響もあり、2022年12月15日以降から始まる会計年度からの適用となります。
CECLの考え方が採用された背景は、2008年以降発生したグローバル金融危機に遡ります。信用損失を認識するための従前の「Incurred Loss – 発生損失」モデルでは、損失が発生してから損失計上が行われるため、結果として損失計上認識タイミングが遅れる事となり、これが資産の過大評価につながるとともに、経済に大きなマイナス影響を及ぼす一因になってしまいました。
CECLは「予想損失」モデルを適用する事で適時に損失を反映し、財務諸表利用者へ有用な情報を提供する事を目的としています。
2. 非金融機関および非公開企業のCECLの適用
CECLは主に金融機関を対象に構築されましたが、非金融機関および非公開企業にとっても他人事というわけでは無く、「純損益を通じて公正価値で測定される金融資産 – FVTPL」以外の金融資産、例えば、ローン、債券、売掛金、現金同等物等の金融資産がCECL適用対象となるため、特に売掛金については多くの企業がCECL適用に伴い影響を受けると想定されています。
3. CECLモデル適用の具体例
具体例として、非金融、非公開企業において顧客における売掛金の評価について考えてみましょう。上述の通り従前の「発生損失」モデルでは、企業は顧客からの貸倒損失が「高い確度」で発生していると考えられる場合にのみ損失を認識していました。しかし、CECLの下では、企業は過去、及び現在のデータに加え、与信データ等による顧客特定の状況、マクロ経済の状況、社会情勢等の情報を分析し、将来の状況を予測、考慮したうえで、当該売掛金に係る予想信用損失を測定し、売掛金を回収が見込まれる金額まで引き下げるための引当金を計上し、損失を即時に認識する必要があります。
(具体例)
- A社はB社に対する売掛金$100,000を有しています。
- 過去の5年間の支払状況等のデータで、A社の売掛金全体の平均貸倒損失率は1%ですが、B社からの回収には特に問題はなく、従来、B社に対する売掛金については引当金は計上していませんでした。
- しかし、コロナ発生後、B社が属する業界は著しく規模が縮小しており、今後もその傾向は継続すると判断されます。それらを踏まえてA社はB社が属する業界の貸倒損失率を2.5%と見積りました。
- 従来の「発生損失」モデルでは、B社は現時点で回収可能性に問題がなく、損失は発生していないため、貸倒引当金は計上されませんが、CECLモデルによると、A社は実際に損失が発生していないにもかかわらず、予想損失に基づいて引当金を計上することになります。A社が業界の予想貸倒損失を使って、B社売掛金に対する期待信用損失を見積もった場合、予想損失は$100,000 x 2.5% = $2,500になり、この$2,500は損益計算書に損失として認識されるとともに、売掛金に対する貸倒引当金としてバランスシートに認識されます。
これはあくまで事例ですので、CECLに基づく貸倒引当金は、顧客別、顧客グループ別、顧客が属する業界別のように類似のリスク特性に応じたグループ分け等に基づき、各社の状況に合わせて検討する事が必要となります。
また、CECLは、信用損失リスクが殆どないと考えられるケースであっても、基本的に予想信用損失を見積もることを要求していますので、過去、貸倒実績がゼロであること、もしくは、顧客がいわゆる超優良企業であることを理由として予想損失を見積もらないことは想定されていません。
4. 結論
上述の通りCECLは、企業の予想信用損失計上方法に大きな変化をもたらします。各企業においてCECL適用に際し、既存の方法論(予想モデルの構築、それに係る報告プロセスの変更及び内部統制の整備等)を見直す等の対応が求められています。詳細につきましては、会計の専門家にご相談下さい。
CECLに限らず会計基準の理解においては、内容はもちろんですが、まずはその背景を理解する事が非常に重要です。背景を理解すると「なぜ」この基準が生まれたのかの本質が理解できます。具体的な対策の前に是非基準の本質を理解し、より適切に実務に落とし込んで頂くために本記事がお役に立てれば幸いです。
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