企業透明化法 (以下、「CTA」という) は、国防権限法の一部として2021年1月1日に制定され、米国愛国者法以来の銀行秘密法およびそれに関連するマネーロンダリング防止法の重要な改革となりました。CTAは、特定の事業体(主に中小企業)に対し、「実質的所有権」情報(Beneficial Ownership Information)を米国財務省金融犯罪捜査網(以下、「FinCEN」という)に報告することを義務付けることで、マネーロンダリング、テロ資金調達、その他の違法な資金調達に対処・防止することを目的としています。
CTAは、米国財務省の一機関であるFinCENに対し、この情報を収集、保護し、政府当局および特定の状況下においては金融機関に開示する権限を与えています。
新しいCTA報告義務の対象となる企業は?
CTAを遵守する必要がある事業体(以下、「報告会社」という)には、株式会社、合同会社(LLC)、および州務長官(Secretary of State、以下「SOS」という)または類似機関への届出によって設立されたその他の種類の法人が含まれます。CTAは、SOSまたは類似機関への申請を通じて米国で事業を行うために登録する外国法人にも適用されます。CTAにおける国内事業体の定義は極めて広範であるため、個々の州法に基づく設立慣行に基づいて、さらに多くの事業体がCTAの報告義務の対象となる可能性があります。
CTAに基づく届出が必要な企業には、いくつかの例外があります。例外の多くは、すでに連邦政府または州政府によって規制されている事業体で、すでに政府当局に実質的所有権情報を開示している事業体です。
もう一つの特筆すべき例外として、以下の要件をすべて満たす企業は「大規模事業会社」と定義され、CTA報告義務の対象外である事です。
- 米国内で20人以上のフルタイム従業員を雇用
- 前年の税務申告における総収入(または売上)が500万ドル以上
- 米国内の物理的なオフィスでの事業展開
報告会社の実質的所有者とみなされるのは誰か?
実質的所有者(Beneficial Owner)とは、直接、間接を問わず、「実質的支配力」を行使する個人、または会社の所有権の25%以上を所有または支配する個人を指します。
次の(i)から(iii)に該当する場合、「実質的支配力」を行使する個人としてみなされます。(i)会社の上級役員(Senior Officer)を務めている場合、(ii)上級役員または取締役会(Board of Directors)の過半数の選任・解任に関 する権限を有している場合、(iii)報告会社による重要な意思決定を指示、決定、または実質的な影響力を有している場合。従って、会社に対する支配力を持つ上級役員やその他の個人は、たとえ会社に持分がなくても、CTAの下では実質的所有者となります。
加えて、個人は、取締役会の代表権、所有権、資金調達の取り決めに関連する権利、または個別もしくは集合的に実質的な支配力を行使する仲介事業体に対する支配を通じて、直接的または間接的に支配力を行使することができます。
CTAの規定では、「実質的支配」の定義が従来の税務上の定義よりもはるかに拡大されているため、多くの企業は、最終的に誰が組織内の実質的所有者とみなされるかを決定するために、法的指導を求める必要があるかもしれません。
報告義務の段階的導入
現時点の公布によると、CTAの報告義務は2段階で段階的に導入されます:
- 2024年1月1日以降に設立(米国以外の会社の場合は登録)されるすべての新規報告会社は、設立または登録後90日以内に必要な情報を報告しなければならない。
- 既存の報告会社(2024年1月1日以前に設立または登録された会社)はすべて、2025年1月1日までに必要な情報を報告しなければならない。
CTAの準備
CTAが新しく広範な報告制度を導入した今、新ルールが組織に与える影響を評価する良い機会と考えます。全てを網羅するものではありませんが、貴社が今検討すべき事項は以下の通りです:
- CTAの対象か、それとも免除の資格があるか。
- もし免除されないのであれば、どのように「所有権」のパーセンテージを計算し、25%の所有権を満たす所有者がいるかどうかを判断すべきか。単純な資本構造を持つ多くの会社では、答えは明白です。しかし、資本構成が複雑な会社(「所有権」の定義が広範であるため)や、所有権の一部が間接的に保有されている会社(例えば、上位の投資事業体、持株会社、信託など)にとっては、不明確です。
- 会社に対して「実質的支配力」を行使する各人物をどのように評価し、決定するのか?実質的支配」の定義が広範(かつ曖昧)であることから、該当する人物は複数存在する可能性があります。
- 会社は、FinCENへの適時の更新報告が必要となる将来の実質的所有者の変更、および既存の実質的所有者に関する情報の変更をモニターするために、どのような新しいプロセスと手順を導入すべきか。これらの実質的所有者についてFinCENに提供義務がある(そして最新情報を維持する必要がある)情報の種類には、所有者の法的な名前、居住地の住所、生年月日、および期限切れでないパスポート、運転免許証、または州の身分証明書に記載されている固有の識別番号(固有の識別番号の書類の画像を含む)が含まれることに注意してください。会社は、実質的所有者の情報の変更(例えば、所有者の変更、移動、結婚、離婚など)があれば、実質的所有者からのタイムリーな情報提供を頼りにすることになるため、注意が必要です。(注:これらの情報は変更から30日以内に報告が義務付けられています。)その結果、会社の基本文書に、表明条項、誓約条項、補償条項、同意条項など、CTAに関連する条項を盛り込むよう修正する必要が生じる可能性があります。例えば、業務運営契約書(Operating Agreement)には以下のような条項が含まれます:
- 各株主、メンバーまたはパートナー(該当する場合)による、CTAを遵守する、またはCTAを免除する旨の表明
- 各株主、メンバーまたはパートナー(該当する場合)による、CTAに基づく継続的な遵守と開示を義務付ける誓約書、またはCTAの要件から免除される証拠を提供する誓約書
- 各株主、会員またはパートナー(該当する場合)が、CTAを遵守しなかった場合、または虚偽の情報を提供した場合、会社およびその他の株主、メンバーまたはパートナー(該当する場合)に対して補償すること。
- 法律で義務付けられている範囲で、会社がFinCENに識別情報を開示することに対する各開示当事者による同意。
今すぐ行動を!
CTA は税法の一部ではないため、実質的所有権の判定に限らず、規則で規定された多くの要件の評価および適用には、法的な指導が必要となる場合があります。弊事務所は法務の専門家ではないため、お客様の事業体の性質に免除が適用されるかどうか、または法的関係が実質的所有権に該当するかどうかについて、法的判断を提供することはできません。
したがって、お客様におかれましては、CTAの遵守を確保するために必要な措置についての支援を得るため、この分野の専門知識を有する法律顧問にできるだけ早く連絡することを強くお勧めします。
なお、CTAの報告義務に故意に違反した場合の罰則には、(1)違反が是正されない場合、1日につき最高591ドルの民事罰、(2)最高1万ドルの刑事罰、および/または(3)最高2年の禁固刑が含まれます。
CTAに基づく実質的所有権の報告要件に関する追加情報については、FinCENの「よくある質問」文書(https://www.fincen.gov/boi-faqs)を参照してください。
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