トランプ関税2.0

米国の関税政策は日々変化しており、世界中がその動向に注目している。本稿では、3月12日時点で発表されている関税措置を個別に考察し、今後の展望について解説する。

1月20日の大統領就任日に発表された大統領令では、各省庁に対し、4月1 日までにアメリカファースト貿易政策について報告書を取りまとめ、大統領に提出するよう指示が出された。この指示の目的は、米国の貿易赤字削減、国内の重要産業の保護、不公正な貿易慣行への対抗にある。第一次トランプ政権と比較すると、早期に体系的な政策を進める意欲がうかがえる。

<アメリカファースト貿易政策の主な趣旨>

  • 貿易赤字の調査
  • 不公正貿易慣行の調査
  • USMCA(アメリカ、カナダ、メキシコ協定)の見直し
  • 対中政策の見直し
  • 輸出管理規則の強化など

しかし、トランプ大統領は、この報告書の作成を待たず、次々と新たな関税政策を発表している。本格的な政策の施行や交渉は4月以降になると考えられるが、それまでの間、各国との交渉環境を整える目的で、緊張状態を維持しようとしていると推察される。

<3月12時点で発表及び実施されたトランプ政権による主な追加関税>

トランプ政権の第二期目では、第一次政権とは異なり、関税を交渉の切札として用いるのではなく、まず発動し、その後、交渉に入る「関税ファースト」の交渉スタイルに転換している。この手法は非常に強硬であり、すでに貿易相手国からの報復関税が発動されるなど、国際貿易に広範囲な影響を与えている。

ただし、当初懸念されていた「ベースライン関税」(全世界からの全輸入品に対して一律20%から40%程度の関税を課す案)は、当面の間実施の可能性が低くなっていると見受けられる。これは、国際貿易システムを根本から変えてしまうような強硬策が、米国内外での政治的・経済的影響を考慮した結果、調整されているためと考えられる。また、4月2日からの相互関税の実施が発表されたが、相互関税実施の実務上の困難さを考慮すると、特定の国や品目に絞った貿易交渉へのシフトが推測される。今後の主要な動向として、トランプ政権は、追加関税撤回を交渉材料としながら、貿易相手国に対して特定の産業・品目を対象に、米国へのサプライチェーン移転の促進、農産物や軍事関連製品の輸出拡大などの譲歩を求める可能性が高い。

<米国政府の狙い>

  • 対米貿易赤字国への圧力(中国、メキシコ、ベトナム、ドイツ、カナダ、日本等)
  • 安全保障上重要な製品の国内製造促進(鉄鋼、アルミニウム、自動車、医薬品、半導体等)
  • 不公正貿易問題への対応(知的財産権侵害、不公正補助金、為替操作等)

もちろん、貿易交渉がスムーズに進むとは限らない。特に、EU諸国とは長期的な対立が続くと予想される。4月以降、米国の関税政策はさらに具体的な交渉フェーズに移行するため、企業は政府や産業団体レベルでの交渉の進展を注視し、適切な対応を検討する必要がある。

以下、個別関税問題について考察する。

  • メキシコおよびカナダ

メキシコおよびカナダに対する25%の関税は、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づき、国境警備強化や違法ドラッグ対策を目的として導入された。しかし、これらの関税は単なる治安対策にとどまらず、両国との貿易赤字削減やUSMCA(米国、メキシコ、カナダ協定)の再交渉に向けた交渉材料としても利用されていることは間違いない。3月10日に実施された措置により、USMCA適用製品は、4月2まで25%関税の実施が延期されることとなった。ただし、UMCA適用外の製品は全輸入品の5割以上を占めており、今後の関税措置の継続に関しては依然として不透明な状況が続いている。このような状況下では、関税がどれくらいの期間適用されるかが非常に重要であるが、例えば、自動車の場合、米国が関税率を引き上げることで米国への投資を促進しようとする意図が考えられ、そのため適用期間が長期にわたる可能性がある。また、もし米国、カナダ、メキシコがより厳格な原産地規則に合意した場合、USMCA適用外と判断される製品には、2.5%より高い関税が適用されると予想される。これは、企業が規制遵守にかかるコストが関税より高ければ規制を順守しないと考えられ、2.5%の場合は関税を支払った方がむしろコストが抑えられるからである。

来年には、USMCAの見直しが予定されており、その再交渉の行方が今後の関税措置にも影響を与えると考えられる。カナダはすでにUSMCA見直しの前倒しに同意しており、メキシコも関税撤回の一つの条件として見直しの前倒しに同意する可能性が高い。また、メキシコも関税の撤廃又は軽減を条件として、審査の前倒しに合意する可能性が高い。なお、メキシコについては、以下の追加的な要求事項について現在交渉が進められている。

  • 中国製品のメキシコからの迂回輸入を防ぐため、中国製鉄鋼に対する関税を引き上げること。
  • 中国との間で実施している少額輸入(de minimis)プログラムを終了すること。

一方、カナダに対する米国の要求は、主に中国の犯罪組織からの資本流入を遮断することに焦点を当てている。 

  • 鉄鋼およびアルミ関税は実施されたが、その実効性について争われる可能性も

3月12 日、鉄鋼およびアルミニウムに対する25%の追加関税措置が発動された。この措置は、2017年に第一次トランプ政権下で実施された通商拡大法232条に基づく関税措置を拡張するものである。当時、日本、EU、韓国などの主要貿易相手国は交渉により、関税割当や一部適用除外制度を設けることで追加関税は一定程度回避した。しかし、2017年以降、鉄鋼およびアルミの輸入額が大きく減少していないため、今回の措置の発動に至った。この新たな措置により、これまでの取り決めが撤廃され、すべての国に対して一律の関税が適用されることになった。

しかし、関税発動後に、国際貿易裁判所(CIT)への訴訟が提起される可能性が高いと予測されている。ただし、この訴訟は差し止め命令を求めるものではなく、関税の徴収自体は継続される見込みである。訴訟の中心となる論点は、商務省が2017年に実施した調査の結果に依拠して、2025年に関税を引き上げることが適法であるかどうかである。つまり、新たな調査なしに過去の調査結果を根拠とすることが許されるか、あるいは新たな調査が必要となるかが争点となる。この問題には、2019年のトルコ産鉄鋼の関税引上げに関する判例が関連している。当時、トランプ政権はトルコ産鉄鋼の232条関税を25%から50%に引き上げたが、これに対しCITへ提訴がなされた。原告側は、「関税引き上げには新たな調査が必要である」と主張し、CITはこの主張を認めた。しかし、控訴審では、連邦控訴裁判所が「当初の関税適用から間もなく(shortly after)引き上げが行われたため、調査のやり直しは不要」と判断した。今回のケースでは、2025年に同じ製品の関税引き上げを2017年の調査に基づいて実施することが、「shortly after(間もなく)」の要件を満たすのかどうかが問われることになる。もし訴訟が成功すれば、この期間に支払われた追加関税が全額返還される可能性がある。なお、「232条調査」は通常9か月程度かかるとされているが、商務省の判断次第ではより迅速に調査が進められる可能性がある。

  • 中国関税

2025年2月4日と3月4日、IEEPAに基づき、フェンタニル流入を防ぐ目的で、それぞれ10%の追加関税が発動された。これにより、既存の通商法301条制裁関税と合わせると、最大で45%の追加関税が課せられることとなった。6月には、トランプ大統領と習近平国家主席の会談の可能性が報道されており、トランプ大統領も中国との合意に一定の意欲を示している。この交渉において具体的な進展があれば、中国の新たな目標の達成を条件に、IEEPAに基づく20%の追加関税が段階的に減らされる可能性がある。しなしながら、301条関税に関しては、撤廃の見通しは立っていない。その背景には、中国がPhase I合意の履行を怠っていると米政府が見なしていること、さらに301条関税が米国にとって重要な財源であることがある。このため、大幅な緩和は期待しにくい状況にある。また、他国と異なり、中国による米国への投資は歓迎されないことから、中国が譲歩を引き出すのは難しいと考えられる。

さらに、中国製品については原産地偽装の問題が指摘されており、実質的変更基準に基づく原産地国ルールの見直しが検討されているとの報道もある。これは、関税回避のために第三国を経由する迂回輸出に対抗する措置として導入される可能性があり、中国企業がサプライヤーとする企業にとって注意が必要である。

  • ベースライン関税の可能性低下、代わりに相互関税の導入の検討

ベースライン関税の法律的な実現性や経済への悪影響を考慮し、相互関税への手法転換が検討されているように見受けられる。相互関税は、4月2 日より適用開始予定である。この手法は、貿易相手国の関税率に応じて、米国も同等の関税を課すことで、高関税を課す国に対抗し、関税率の低下を促すことを目的としている。しかし、すべての国に対応しようとすると、200万通り以上の関税率を設定する必要が生じ、実行が極めて困難である。また、日本を含めた多くの先進国の平均関税率は低いため、貿易赤字削減の手段としてどの程度の効果があるかは疑問が残る。そのため、特定の貿易国や品目に絞るとともに、非関税貿易障壁などを理由に挙げて、相互関税と称して一方的に高い関税率が設定される可能性も考えられる。

最後に

今後、4月以降には対象となる貿易相手国や品目が絞り込まれ、貿易交渉の方向性がより明確になると考えられる。これにより、企業も計画が立てやすくなると思われる。予想される貿易政策のシナリオに基づき、サプライチェーンの再構築に向けたシミュレーションは早期に実施することが推奨される。ただし、実際の対応については、貿易政策の動向を慎重に見極めた上で進めることが望ましい。

弊社としても、今後ともクライアントの皆様に最新の情報を適宜提供し、関税を最小限に抑えるためご支援をご提供できるように努めてまいります。

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